かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)はとるべき? メリット・デメリット

訪問歯科

投稿日:2023.12.01

最終更新日:2023.12.27

ジョブメドレーアカデミー編集部

少子高齢化の進行に伴い、健康寿命延伸に寄与する「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」の重要性が増しています。この記事では、か強診の施設基準や認定を受けるメリット・デメリット、届出の課題について解説します。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)はとるべき? メリット・デメリット

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所とは

継続的管理による重症化予防を評価する制度

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(以下「か強診」)とは、地域住民のライフステージに応じた継続的な口腔管理により、歯科疾患の重症化予防を図る歯科医院を評価する制度です。少子高齢化の進展や、若年層のう蝕減少をはじめとする歯科疾患の罹患状況の変化を背景に、地域包括ケアシステムの一環として2016年度の診療報酬改定で新設されました。

かかりつけ歯科医の役割

かかりつけ歯科医師がおこなうべきは、安心・安全な歯科医療の提供に留まりません。地域医療の担い手として医療や介護に関する幅広い知識と見識を備え、患者の生涯にわたる口腔機能の維持・向上を目指すことが求められます。

日本歯科医師会は、かかりつけ歯科医が担う役割として以下を挙げています。

かかりつけ歯科医が担う具体的な役割の例

・重症化予防のための必要な初期治療および継続的な疾病管理
・在宅、病院、介護施設等の患者が療養する場における継続的かつ適切な歯科医療の提供や口腔機能管理、チーム医療、退院時カンファレンスなどへの積極的な参画
・行政や後方支援機能を有する医療機関、近隣の医科医療機関などの関係機関と連携する中で他職種との連携を図る
・歯科診療を通じた認知症や児童虐待の早期発見と関連機関との連携
・歯科健診や住民を対象とした講演会などの公衆衛生活動への参画
・介護認定審査会や地域ケア会議への参画など
・介護保険施設等の協力歯科医療機関として関与 など


出典:日本歯科医師会|かかりつけ歯科医について(日本歯科医師会の考え方)(最終アクセス:2023年11月27日)

施設基準(2022年度診療報酬改定対応)

か強診の認定を受けるには厚生労働省が定める施設基準をすべて満たし、各地方厚生局に届け出る必要があります。以下は2023年現在の施設基準です。歯科外来診療環境体制加算(外来環)や在宅療養支援歯科診療所(支援診)の届け出をしている歯科医院は、すでにクリアしている要件も多いのではないでしょうか。

厚生労働省|かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準

(1)

歯科医師が複数名配置されていること又は歯科医師及び歯科衛生士がそれぞれ1名以上配置されていること。

(2)

次のいずれにも該当すること。


過去1年間に歯周病安定期治療又は歯周病重症化予防治療をあわせて 30 回以上算定していること。
過去1年間にフッ化物歯面塗布処置又は歯科疾患管理料のエナメル質初期う蝕管理加算をあわせて 10 回以上算定していること。
クラウン・ブリッジ維持管理料を算定する旨を届け出ていること。
歯科点数表の初診料の注1に規定する施設基準を届け出ていること。

(3)

過去1年間に歯科訪問診療1若しくは歯科訪問診療2の算定回数又は連携する在宅療養支援歯科診療所1若しくは在宅療養支援歯科診療所2に依頼した歯科訪問診療の回数があわせて5回以上であること。

(4)

過去1年間に診療情報提供料又は診療情報連携共有料をあわせて5回以上算定している実績があること。

(5)

当該医療機関に、歯科疾患の重症化予防に資する継続管理に関する研修(口腔機能の管理を含むものであること。)、高齢者の心身の特性及び緊急時対応等の適切な研修を修了した歯科医師が1名以上在籍していること。なお、既に受講した研修が要件の一部を満たしている場合には、不足する要件を補足する研修を受講することでも差し支えない。

(6)

診療における偶発症等緊急時に円滑な対応ができるよう、別の保険医療機関との事前の連携体制が確保されていること。ただし、医科歯科併設の診療所にあっては、当該保険医療機関の医科診療科との連携体制が確保されている場合は、この限りではない。

(7)

当該診療所において歯科訪問診療を行う患者に対し、迅速に歯科訪問診療が可能な歯科医師をあらかじめ指定するとともに、当該担当医名、診療可能日、緊急時の注意事項等について、事前に患者又は家族に対して説明の上、文書により提供していること。

(8)

(5)に掲げる歯科医師が、以下の項目のうち、3つ以上に該当すること。


過去1年間に、居宅療養管理指導を提供した実績があること。
地域ケア会議に年1回以上出席していること。
介護認定審査会の委員の経験を有すること。
在宅医療に関するサービス担当者会議や病院・介護保険施設等で実施される多職種連携に係る会議等に年1回以上出席していること。
過去1年間に、栄養サポートチーム等連携加算1又は栄養サポートチーム連携加算2を算定した実績があること。
在宅医療又は介護に関する研修を受講していること。
過去1年間に、退院時共同指導料1、退院前在宅療養指導管理料、在宅患者連携指導料又は在宅患者緊急時等カンファレンス料を算定した実績があること。
認知症対応力向上研修等、認知症に関する研修を受講していること。
過去1年間に福祉型障害児入所施設、医療型障害児入所施設、介護老人福祉施設又は介護老人保健施設における定期的な歯科健診に協力していること。
コ 自治体が実施する事業(ケに該当するものを除く。)に協力していること。
学校歯科医等に就任していること。
過去1年間に、歯科診療特別対応加算又は初診時歯科診療導入加算を算定した実績があること。

(9)

歯科用吸引装置等により、歯科ユニット毎に歯の切削や義歯の調整、歯冠補綴物の調整時等に飛散する細かな物質を吸引できる環境を確保していること。

(10)

患者にとって安心で安全な歯科医療環境の提供を行うにつき次の十分な装置・器具等を有していること。


ア 自動体外式除細動器(AED)
イ 経皮的酸素飽和度測定器(パルスオキシメーター)
ウ 酸素供給装置
エ 血圧計
オ 救急蘇生セット
カ 歯科用吸引装置


なお、自動体外式除細動器(AED)については保有していることがわかる院内掲示を行っていることが望ましい。

出典:厚生労働省|特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)※太字を加工(最終アクセス:2023年11月27日)

か強診の届出書類

か強診の届け出は厚生労働省が定めた書類様式(別添2、様式17の2)を用いておこないます。研修については、該当の研修を受講したことが確認できる文書も提出します。

か強診の届け出に必要な種類

・【別添2(か強診)】特掲診療料の施設基準に係る届出書
・【様式17の2】かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準に係る届出書添付書類
・各研修の受講を証明する文書(当該研修の名称、実施主体、修了日及び修了者の氏名等を記載した一覧でも可)

※書類様式は各地方厚生局のサイトより入手可能です
※届け出が受理されたあとに診療報酬改定で施設基準の要件・様式に変更が生じたときは、再届出が必要になる場合もあります

か強診の届け出をするメリット

診療報酬が手厚い

か強診に認定された歯科医院は、長期加算をはじめとした一部の加算項目で一般の歯科医院よりも高い点数を算定できます。エナメル質初期う蝕管理加算や歯周病安定期治療に係る加算など、か強診の歯科医院のみ算定可能な加算項目もあります。

か強診の加算項目と点数比較(2023年度)

例えば長期管理加算は、か強診が120点で一般歯科は100点、エナメル質初期う蝕管理加算は、か強診が260点で一般歯科は算定できません

また、エナメル質初期う蝕の管理と歯周病安定期治療においては、加算の有無だけでなく診療報酬の算定可能頻度も異なります。

一般歯科の算定はどちらも3ヶ月に1回まで、か強診は毎月1回、それぞれの加算と併せて算定できます

患者や求職者に選ばれる

患者の口腔状態や要望に応じて毎月保険診療でメンテナンスをおこなえるため、患者の満足度向上につながります。院内掲示やホームページ、SNSなどを使って、か強診であることをアピールすれば医療体制や設備が充実した歯科医院として広く認知され、患者や求職者に選ばれやすくなります。

か強診の届け出をするデメリット

初期投資が必要

か強診の認定を受けるには、院内感染防止対策の整備や緊急時対応機器の設置が必要です。そのため、定められた設備のない歯科医院にとっては初期費用がかかるのが難点でしょう。とはいえ、か強診をとれば増収が見込めるので、投資した金額を早めに回収することは決して難しくありません。

患者の自己負担額が増加する

届出により算定する点数が上がれば、必然的に患者の一部負担金も高くなります。負担額の増加はクレームの原因になり得るため、認定を受けた際には、か強診制度について患者に周知することが大切です。院内掲示やホームページでの公表に加えて受付などで個別に説明することで、患者との信頼関係を損なわずにすみます。

届出状況とハードル

届出率は20%未満

各地方厚生局公開の「施設基準の届出受理状況」を独自集計したところ、2023年8月時点のか強診の届出受理数は12,681件(※1)でした。つまり全国の歯科診療所67,220施設(※2)のうち、約19%しか届け出をしていないということです。

制度創設8年目ながら、か強診の届出率は18.9%に留まっています

※1:各地方厚生局「施設基準の届出受理状況」より「か強診」の受理数を集計。47都道府県のうち東北・関東信越は2023年7月1日時点、その他は2023年8月1日時点の数(最終アクセス:2023年11月27日)
※2:厚生労働省|
医療施設動態調査(令和5年8月末概数)(最終アクセス:2023年11月27日)

届出数が増えない理由は?

認定を受ければ大きなメリットを得られるにもかかわらず届出率が伸び悩んでいる原因は、施設基準の厳しさにあります。とくに外来診療をおこなう大多数の歯科医院にとっては、訪問診療の実績に関する要件がハードルになっているようです。

厚労省の調査によると、か強診未届けの歯科医院が現在不足している要件は「訪問診療の実績」が最多で72%に上りました

出典:厚生労働省|中央社会保険医療協議会 総会(第504回) 歯科医療(その2)をもとに作成。降順に並び替えの上、赤枠追加(最終アクセス:2023年11月27日)

訪問診療の実績不足でお悩みの方へ

ジョブメドレーアカデミーは、訪問歯科の立ち上げ・事業拡大に役立つ研修動画を取り揃えたオンライン動画研修サービスです。「か強診取得のためのノウハウ」コースでは、か強診と一般歯科医院の採算性の違いや、施設基準をクリアするための方法などを具体例を交えて解説しています。ご興味のある方は下記より資料請求フォームへお進みください。

受付時間 9:30 〜 18:00(平日)

参考

・厚生労働省|かかりつけ歯科医機能の評価の導入
・厚生労働省|特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)
・日本歯科医師会|かかりつけ歯科医について(日本歯科医師会の考え方)
・日本歯科医師会|社会保険歯科診療報酬点数早見表(1)(2)(令和4年4月1日実施)
(最終アクセス:2023年11月27日)